今宵、貴女の指にキスをする。
「今日、A出版の美人編集者の手を握ろうとしていたでしょう?」
「はぁ!?」
「見たんだから。会議室から出てきたとき、祐輔さんが彼女の手に触れようとしていたところ」
あんな光景見たくなかった。
ギュッともう一度目を瞑り、膝の上で手を握りしめる。
そこに、大きな手の平が包みこむようにして触れた。相宮の手だ。
「何を言い出したかと思えば……」
「だ、だって。私のこと、祐輔さん……飽きちゃったのかと思ったの。だから、だから……」
綺麗な指の女性だった。だからこそ円香は焦ったのだ。
涙をポロポロと流し続ける円香に、相宮はクスクスと笑い出した。
「あのね、円香。前にも言ったと思うけど、私は指フェチっていう訳じゃないんだよ」
「……だって、最初私の指ばかり触っていたでしょう?」
「あれは……私に意気地がなかったのと、円香の気持ちを探るためだったんだけどね」
困ったように肩を竦めた相宮だったが、円香の指を持ち上げて、指先にキスをしてきた。