今宵、貴女の指にキスをする。

「円香の指が好きなのは、この指があの綺麗な文章を書き上げている指だからだよ」
「……」
「これも言ったと思うけど、円香を好きになったきっかけは君が書いた作品だったんだ。あの文書を紡ぐ手ですよ? 好きになるに決まっている」

 改めて言われると恥ずかしい。絶句だった。
 顔を真っ赤にさせて円香は相宮を見つめる。

「今日、円香が見たのはね。ペンを貰う瞬間だったと思うよ」
「え?」
「きちんと最後の最後まで見ていてほしかったな。で、文句があるのならその場で言って。そうすればすぐに誤解は解けたのに」

 涙でぐしゃぐしゃの顔で円香は相宮を見つめる。
 すると、相宮は指で涙を拭ってくれた。

「断じて彼女に指一本触れていない。約束する」
「本当?」
「何? 疑っているのかな? 円香は」
「あ……」
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