今宵、貴女の指にキスをする。
この声色はマズイ。円香は反射的に確信した。
ごめんなさい、私の勘違いでしたね。そう言ってソファーから立ち上がろうとする円香を、「まあまあ」と相宮は意味ありげにほほ笑んで円香を自分の腕の中に導いた。
「これだけ奥さんに一途なのに。疑うんだね、円香は」
「えっと、その……」
「心外だな。私の目には円香しか映っていないのに。どうしたら、鈍感な奥さんに気付いてもらえるのかなぁ?」
「ご、ごめんね。私ってば勘違いしてた……よね?」
とりあえず謝り倒すしかない。円香はごめんね、と何度も相宮に謝る。
だが、相宮はニコニコと笑ってはいるが目が怒っている。
これは、本当にマズイかもしれない。円香の背に冷や汗が流れた。
「そうか。私がどれほど円香のことが好きなのか。円香の書いた文章が好きなのか、そしてその文章を紡ぐ指が好きなのか。再度認識して貰わなくちゃだめってことだね」
「いや、大丈夫。しっかり伝わっているから」
「いーや、伝わっていない。さて、どうしようかな」
そういうと、相宮は円香の指先に唇を押しつけてきた。
ゾクリと快感が背に走る。真っ赤になって狼狽える円香に、相宮はニッコリとほほ笑んだ。
ただし、目は真剣そのものだった。