今宵、貴女の指にキスをする。
賞を受賞すれば書籍化される、そう応募規約に書かれてはあったのだが、まさか自分の作品が受賞するだなんて応募するときには夢にも思わず……
とにかく慌てたことだけは記憶に新しい。
そんなときに担当になったのが、目の前の男性である堂上だったのだ。
処女作の一本のみだけだったから、堂上が円香の担当をしていたのは短い期間だった。
それに、本当にあの頃の円香は必死そのものだった。だから、すぐに堂上だとわからなかったことは許してほしい。
円香は謝罪も込めて、頭を下げた。
「ご無沙汰しております。堂上さんは、課長になられたんですよね?」
「ああ。昇進したから、七原に木佐ちゃんの担当を譲ったんだよな」
懐かしいなぁ、と目を細めて笑う堂上は昔のままだった。
デビュー当時に戻ったように感じ、円香も嬉しくなって口元を緩める。
すると、堂上は円香の姿をジッと見つめたあと、顎に手をやり考えこむ仕草をした。
ヒゲを弄ぶような仕草をしたあと、ジッと円香を見つめてくる。