今宵、貴女の指にキスをする。

 やっぱり円香をからかっていたようだ。
 悔しくて口を歪める円香に対し、堂上は急に真剣な面持ちになった。

「じゃあ、また」
「……はい」

 急に態度を変えた堂上に、円香が驚きながらも小さく頷く。すると、堂上は真摯な瞳で円香の目を見つめてきた。

「ああ、さっきの話」
「さっきの話ですか?」

 何のことだろうと怪訝に思って眉を顰める円香を見ても、堂上の真剣な表情は崩れない。
 それがますます円香の心を混乱に陥れていく。

「そう。木佐円香が欲しいって言ったヤツな」

 ですから! と反論しようとする円香の言葉を遮って堂上は言い切った。
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