今宵、貴女の指にキスをする。
3
A出版のパーティーを無事――と、言えるかは少々疑問ではあるが――終えた円香だったが、堂上の悪戯なのか本気なのかイマイチ掴めない言動や行動のせいで、心が乱れまくっていた。
だが、と円香は思い直す。堂上は円香の担当編集者ではない。
円香と常に連絡を取り合うのは七原であり、堂上とは話すこともないはずだ。
現に、担当が堂上から七原に代わったあと、特に堂上と顔を合わす機会もなければ、電話で話をするということもなかった。
となれば、特に動揺することもないだろう。それが最終的に円香が導き出した答えだった。
そうとなれば心を乱しているのもバカらしくなる。
ここ数日モンモンとした気持ちを抱いていた円香だったが、次第に一人で悩んでいるのもバカらしくなり堂上とのことは時間と共に風化し始めていた。
だが、風化する問題ではないとわかったのは、パーティーの一週間後の出来事だった。
編集部に足を運び、担当の七原と今執筆中の作品について意見交換をしているときだった。
小さな会議室に女二人であれこれ話していると、ドアをノックする音が聞こえる。