今宵、貴女の指にキスをする。

「課長がどうしてここに?」

 七原の声はどこか刺々しかった。
 いつも元気いっぱいで朗らかな七原とは打って変わり、厳しい表情をしていることに円香は目を丸くさせた。 
 どうしてか警戒心丸出しの七原に、円香は小首を傾げる。

 円香も堂上に対して警戒しなくてはならない出来事はあったが、もしかしたら七原に対しても堂上は同じようなことを言っているのかもしれない。
 となれば、堂上という人物は要注意人物となる。

 円香は七原同様、堂上に対して警戒心を高めながら二人のやりとりを見つめる。
 一方の堂上はというと、そんな二人をモノともせずにいつものようにゆったりと笑った。

「何をカリカリしているんだ? 七原。女二人で内緒の話か? どれ、俺も仲間に入れろよ」

 ニッと笑う堂上に悪気はなさそうに見える。
 だが、七原は上司の堂上に対し、冷たい態度をとり続ける。
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