今宵、貴女の指にキスをする。
「どうして七原さんが謝るの?」
「堂上課長は私の上司ですから。不快な思いをさせてしまいまして、本当に申し訳ありません」
「……」
「本人にはキツく注意しておきますので」
真剣な面持ちで言う七原を見て、円香はクスッと声を出して笑った。
「木佐先生?」
「ごめんなさい。だって、七原さんが自分の上司をめった切りするものだから、つい」
上下関係から言えば、どう見ても七原は堂上の下であり、本来ならばこんなふうに啖呵を切っていい相手ではないだろう。
もしかして、と円香は一つの可能性に思い当たり、七原に小声で聞く。
「七原さんと堂上さんってお付き合いしているの?」
「な、な、何を言っているんですか! 木佐先生」
「あら? 大当たり?」
「違います!」
「じゃあ、七原さんの片思い……とか?」
ワクワクして目を輝かせる円香に、七原は大袈裟に息を吐き出した。