今宵、貴女の指にキスをする。
「さて、木佐先生。先日相談していた件についてですが」
「はい、作中にでてくる風景についてですよね」

 相宮に先日頼まれていたことがある。それは作中に出てくる主人公たちが見つめる風景についてだ。

 舞台は京都。あじさいが咲き乱れる中を走るシーンがあるのだが、そのシーンを相宮は気に入ってくれているらしい。
 そのシーンをイメージして今回装丁をするということで、円香が思い浮かべて書いた情景の資料はないかと言われていたのだ。

 あじさいの色目や時間帯、気温などなど……文章中には書かれていない情報がほしいということで、資料を用意しておいた。
 相宮は表紙素材と帯とのマッチングに悩んでいるらしく、昨夜連絡があって急遽打ち合わせをすることになったのである。

「これは……あじさい寺ですか?」
「あ、はい。ご存じなんですか?」

 このお寺は通称あじさい寺と言って、京都では有名なお寺だ。
 だが、写真画像には場所の名前は書かれていない。この風景だけを見て分かった相宮は、この地に足を運んだことがあるのだろうか。
 円香が不思議に思って聞くと、相宮は優しげに目を細めた。
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