今宵、貴女の指にキスをする。

「ええ。実家が京都にありましてね」
「そうなんですか!」

 初耳だった。円香は思わず身を乗り出してしまう。

 円香は昔から京都が大好きだ。新幹線に乗り、京都に降り立つ瞬間のワクワクは何度味わってもいい。
 寺院まわりもいいが、ただ京都の町並みを歩いたり、眺めるのも好きなのだ。

 京都出身だという相宮だ。きっと円香が知らない、いろいろな京都の一面を聞くことができるだろう。
 目を輝かせている円香を見て、相宮はフフッと声を出して笑った。

「あじさいの時期にはこの寺によく行くのですよ」
「うらやましいです。私もここのあじさいが好きなんです。三回ぐらいは行っているかも」

 最後に行ったのは昨年のことだ。そのときは、開花時期が微妙にずれていて満開のあじさいを見ることができなかったという苦い思い出もある。
 円香は興味津々で相宮に尋ねる。
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