今宵、貴女の指にキスをする。

 先日のパーティー、そして三日前にはA出版社の会議室で顔を合わせたばかりだ。
 合わせただけではない。なにやら意味深な行動と言動を繰り返され、円香自身戸惑ったばかりである。

 そして、すぐに七原の言葉が脳裏を過ぎた。
“堂上課長には気をつけてください”というなんとも危機感を煽るような言葉だ。

 それも七原の目は真剣だった。
 そのことを思い出し、円香は青ざめる。すると、背後から声がした。相宮だ。

「これは……A出版の堂上さんじゃないですか」
「ああ、相宮さん。こんにちは。木佐ちゃんの次回作の装丁相談ですか?」
「ええ」

 穏やかな会話内容である。
 だが、不穏な空気が玄関にたちこめている様に感じるのは円香の気のせいだろうか。

 ハラハラして相宮と堂上を交互に見つめる円香を蚊帳の外にし、二人の男たちは表面上は和やかに話を続ける。
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