今宵、貴女の指にキスをする。

「さて、そろそろ行くな」
「えっと、はい。あ、資料ありがとうございます」

 慌てて頭を下げる円香を見て、堂上は苦笑した。

「七原にめちゃくちゃ怒られるな、きっと。今日は編集部に戻りたくねぇなぁ」

 じゃあな、と円香に言ったあと、相宮を見て堂上は挑発的な視線を送った。

「木佐ちゃんは立派な大人な女性ですから。相宮さんに限って悪い大人のようなことをしないと信じていますから」
「ご忠告どうもありがとうございます」

 相宮の声が刺々しい。それは堂上にもわかったのだろう。彼は肩を竦める。

「いえ、では。また」

 それだけ言うと、堂上は扉を開けて出て行った。
 カツカツという革靴の足音が静かになったあと、相宮は振り返り円香を見下ろす。

 感情が読めない無表情な相宮を見て、円香は立ちすくんだ。
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