今宵、貴女の指にキスをする。

 七原の上司でもある堂上だ。
 今回のように七原の代わりに仕事をする可能性だってある。
 この前のように円香自身がA出版に出向くこともあるのだ。

 堂上と会わないなんて約束はできないし、仕事としてなら堂上に会う必要はある。
 そう円香が相宮に言うと、彼は顔を歪めた。

 相宮がとても心配してくれることはわかった。だからこそ、これ以上は心配をさせたくない。
 円香は深刻になりすぎないように笑みを浮かべ、何でもない様子を貫く。

「堂上さん、何か意味不明なこと言っていましたけど。どの女性にも言っているだろうし、私をからかって遊んでいるだけですから心配無用ですよ」
「……」
「それに私はA出版から本を何冊も出していただいています。今だってA出版の仕事をしていることは知っていますよね?」

 相宮と打ち合わせをしていたのだってA出版から出す本だ。
 相宮だってそのことは重々承知しているはずである。
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