今宵、貴女の指にキスをする。
確かに今まで堂上は担当を外れてから、顔を出すことはなかった。
それなのに、こうして円香の前に現れる状況になっている以上、円香だって堂上の行動に気をつけなくてはいけないとは思う。
しかし、気まぐれならそのうち堂上の意味深な行動も落ち着くことだろう。
円香は小さく笑った。
「大丈夫ですから。相宮さんは心配しないでください」
相宮を心配させたくはなかった。それに変な誤解もしてほしくない。
円香が好きなのは、相宮だ。間違っても堂上ではない。
報われない思いだとは承知しているが、好きな人に勘違いだけはされたくはない。
その一心で強気で言った円香だったが、それが裏目に出てしまう。
「そうですか……スミマセン。私のおせっかいでしたね」
「え?」
「木佐先生は、私からの心配など不要だとおっしゃるのですね」
それは違う。そう円香が言おうとしたのだが、相宮はそんな円香の言葉を振り切るようにリビングに戻るとカバンを持って再び玄関に現れた。