今宵、貴女の指にキスをする。
「相宮さん」
円香が声をかけたが、相宮は無視をして靴を履いた。
そして、円香を振り返る。相宮のその表情はとても冷たく、今までに見たことがないほど悲しそうだ。
円香はもう一度相宮の名前を言おうとしたが、相宮の冷たい視線をヒシヒシと身体に感じて言葉を呑み込む。
「余計なお世話をしてしまいスミマセンでした」
「ち、ちが」
「失礼します」
相宮の言葉には拒絶が含まれていた。
円香は相宮を引き留めることができず、ただただ静かに閉まった扉を見つめるだけしかできなかった。
そして後日、円香の元に七原から電話が入り、愕然とする。
『木佐先生、今度の本なんですが……違うデザイナーになることになりました』