今宵、貴女の指にキスをする。

 そのあとのことはあまり覚えてはいない。
 ただ、相宮が円香との仕事の手を引いたということだけははっきりとわかった。

 心配してくれていたのに突っぱねた。そのことを怒っているのだろう。
 七原は詳しくは言わなかったが、きっと相宮から断ってきたのだと思う。

 もう一度相宮に会って話したい、謝罪したい。

 そう願った円香だったが、面と向かって話す勇気は持ち合わせてはいない。
 相宮と二度と仕事ができない。会うことはできない。
 
 その現実を突きつけられ、円香は途方に暮れるしかできなかった。



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