今宵、貴女の指にキスをする。
「部下の不手際には上司が出て行くのが当然だろう?」
『何言っているんですか!? 課長は、とっとと会社に戻って、ゲホッ』
七原が激しく咳き込んでいるのがわかる。円香は心配でスマホを見つめていると、堂上と視線が合う。
すると、堂上は円香に向かってわかりやすくウィンクをした。
目を見開く円香を見て微かにほほ笑んだあと、堂上は電話先の七原に言う。
「とにかく、だ。お前はゆっくり休め」
『休めるっわけ……ゲホゲホッ!』
「お前の大事な先生は俺が丁重に扱うから、心配するな」
じゃあな、と堂上は一方的に電話を切ってしまう。そうこうしているうちに、ホームに乗車予定の新幹線が入ってきた。
ホームを流れるアナウンスの音、喧噪の中、堂上は何事もなかったかのように振る舞ってくる。
「ほら、木佐ちゃん」
「あ、えっと……はい」
差し出されたスマホを慌てて受け取ろうと、円香は両手を伸ばした。
だが、スマホをなかなか堂上は返してくれない。