今宵、貴女の指にキスをする。

 眉を顰めた円香に、堂上はニッと意味ありげに笑う。
 その笑みは、とにかく警戒心を煽るものだった。

 円香がおよび腰になって堂上と少し距離を取ろうとした。だが、それは叶わなかった。

「え? ちょ、ちょっと。堂上さん!?」

 スマホを返してもらいたくて差し出した手は、堂上によって捕まれてしまった。
 手首をギュッと握られて、円香はこの状況が掴めず慌てふためく。

 堂上に抗議をしようとしたのだが、そのまま堂上に手を引っ張られてしまう。
 体勢が崩れた瞬間だった。堂上は力強く円香を引き寄せたまま新幹線へと乗り込んだ。
 もちろん円香も一緒に、だ。

「え? どうして?」
「どうしてって……今から取材旅行に行くんだろう? 俺が七原の代わりでお供するぞ?」
「いや、でも……七原さんの後輩が来るって」

 七原は確かにそう言っていた。駅にいませんか、と戸惑っていたぐらいだ。
 七原の後輩が来るのを待っていた方がいい、と堂上に言ったのだが、彼は得意げに胸を反らす。
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