今宵、貴女の指にキスをする。

「ですから。早く連絡を」
「その必要はないな」
「え?」 
「今日来るはずだった七原の後輩、まぁ俺の部下だな。ソイツにはきちんと話して代わってもらったから大丈夫。心配するな」
「そうですか」

 それ以上言うことはない。恐らく堂上は、計算ずくで今日この場にいるのだろう。
 半ば諦めに近い状況の円香は深くため息をついたが、堂上はそのことについても気にしている素振りは見せない。

「ほら、木佐ちゃん。デッキで立ち話より、席に行こう」
「……はい」

 頷くしかないだろう。
 こうして京都行きの新幹線に乗ってしまった以上、どうすることもできない。

 堂上と一緒だということが不安材料ではあるが、彼も編集者の端くれだ。
 仕事とプライベートは分けてくれるだろう。分けてくれると信じたい。

 円香はもう一度大きくため息をついたあと、堂上の後に続いた。
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