今宵、貴女の指にキスをする。
「さぁて、木佐ちゃん。まずは○○堂に行くんだろう?」
「え?」
「あれ、違ったか?」

 京都駅に降り立ち、改札を抜けてから堂上が言い出した。
 確かにその通りだ。だが、ここ最近の堂上があまりに軽率な行動が多かったので、キチンとした仕事をしようとする姿勢に円香はビックリしてしまった。

 堂上は、円香がどうして驚いているのか、見当がついたのだろう。苦笑いを浮かべている。

「あのなぁ、木佐ちゃん。俺だって編集の端くれだぞ?」
「ぞ、存じております」

 端くれと堂上は言うが、彼はA出版文学部において所謂エース級の作家ばかりを担当している。
 だてに課長職に就いてはいないということだ。

 冷静に考えれば大丈夫だということがわかる。
 ただ、再会してからの堂上は円香に対して口説くばかりで、編集者っぽいことを言っていなかった。
 だからこそ、警戒してしまう。
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