今宵、貴女の指にキスをする。

 思案に暮れている円香を見て、堂上は小さく笑う。

「色々な作家の取材旅行にも何度も付き合っている。その俺がうちの大事な作家である木佐先生を蔑ろにするとでも?」

 売上に左右される大物作家の編集ともなれば、かなり忙しいはず。
 それなのに、こうして円香と京都に取材旅行なんてしていていいのだろうか。

 今度は不安に揺れている円香に、堂上は肩を竦める。

「今日来るはずだった部下からしっかりと引き継ぎしてもらったから大丈夫だ」
「あ、はい」

 編集者の目だった。不埒っぽい堂上は陰を顰めている。信じて大丈夫だろう。
 少しだけ胸を撫で下ろした円香に、堂上は不敵に口角を上げる。

「それに俺が木佐先生をエスコートするんだ。部下たちより特別仕様な取材旅行にしてやるから」
「え?」

 どういう意味ですか、と円香は堂上に聞いたが、教えてくれるつもりはないようだ。
 いつもの軽いノリの堂上に戻ってしまい、円香は聞くのを諦めた。
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