今宵、貴女の指にキスをする。

 相宮の仕事の姿勢はストイックだ。
 円香の仕事に対する姿勢や内容など、耳が痛くなるような辛辣なことをズバズバ言ってくる。

 最初は戸惑ったり、憤りを感じることがあったが、今はそれもない。
 それは相宮が、相宮自身にも厳しいからだ。

 ダメだしをありがたく聞き入れる円香に対し、相宮は根気よく付き合ってくれている。
 だからこそ、二人の間には仕事上において固い信頼関係が成り立っているのだ。

 円香の視線が相宮の手に注がれていると、彼の指がノートをめくる。
 それだけの動作なのに、なぜかセクシーに感じてしまうのはどうしてだろう。

 円香は不躾に相宮を見つめていたことに気が付き、ハッとして視線を逸らす。

 だが、動揺して慌てていた円香は知らなかった。相宮が円香の視線に気が付き、少しだけ口角を緩めていたことを……

 慌てた円香は自分のノートを見つめながら、目の前にいる相宮に気付かれないよう息を吐き出して先ほどまでの疑問について考えを巡らせる。
< 6 / 157 >

この作品をシェア

pagetop