今宵、貴女の指にキスをする。
「ははは! 冗談、冗談」
「堂上さん!」
むきになって怒る円香を宥め、堂上は慣れた様子でタクシー乗り場へと行く。
堂上が何度も京都に訪れたことがある様子に、円香は目を丸くする。
タクシーの後部座席の扉が開き、そこに円香と堂上は乗りこんだ。
堂上はすぐさまドライバーに声をかける。
「東山区、△△、○○堂に」
わかりました、とドライバーは返事をすると、すぐさま車は動き出した。
京都駅のロータリーを抜け、車道へと入っていく。
その様子を見つめながら、円香は隣りに座る堂上に声をかける。
「堂上さんは、よくこちらへ?」
「おお。実はとある先生の事務所が京都にあるからな」
「とある先生?」
一体誰のことだろうか。堂上が担当する作家となると、かなりの大物に違いない。
あの先生かな、それともこの先生かな。円香があれこれ考えを巡らせていると、堂上がニンマリと意味ありげに笑う。
「おお、とある先生だ」
「……」
意地でも教えてくれないらしい。
まだ考え込んでいる円香に、堂上は得意げに言う。