今宵、貴女の指にキスをする。
ここは、創業五十年という老舗和菓子屋さんでキレイな水菓子が有名だ。
もちろん販売もあるし、喫茶室もあり、お抹茶と一緒に和菓子をいただくことができる。
よくある老舗和菓子屋ではあるのだが、ここの二階では予約制で和菓子作り体験ができるのだ。
今回執筆している作品では、ここの和菓子屋のお菓子を描写するだけなのだが、七原の提案で「それなら良い勉強になりますから、手作り体験しましょう」という案で予約してくれたのだ。
和菓子屋の暖簾をくぐり、和菓子体験の旨を話すと気の良い女将が案内してくれた。
なんでも今日は他に体験を希望する客がいないという。
「ゆっくり取材していただけると思いますよ」
古びた階段をギシギシと音を立てながら上っていくと、そこには人の良さそうな職人さんが円香たちを待っていた。
「今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、お願いいたします」
ふと机を見ると、材料などが一人分のみしかない。
どうしてだろう、と円香が堂上に視線を向けるとカバンからデジカメを取り出した。