今宵、貴女の指にキスをする。

 そんなことを考えている円香に、堂上は面白くなさそうに顔を歪める。

「なんだよ、木佐ちゃん。酷い扱いだなぁ?」
「ご、ごめんなさい……でも、堂上さんだって悪いんですよ?」

 口を開けば、本当なのか嘘なのか見分けが付かない口説き文句を言っている。
 それで警戒するなと言われても無理だろう。

 円香が不平不満をぶちまけると、堂上はいつものようにカラカラと笑う。

「そりゃあ仕方がないだろう」
「仕方がないって」
「だって、木佐ちゃんがキレイになりすぎたのが悪い」
「わ、私が悪いんですか?」

 その前に眼科に行ったらどうですか? と突っ込みも忘れない。
 円香が真剣に諭そうとすると、堂上は肩を竦めた。
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