今宵、貴女の指にキスをする。
期待に満ちた目で円香は堂上を見つめる。すると、なんだか面白くなさそうに眉を顰めた。
「……なんか悔しいよなぁ」
「え?」
目をパチパチと瞬かせている円香に、苦々しい雰囲気で堂上は話を続ける。
「俺が取材旅行に着いていくって言ったときは、困った雰囲気だったのに。楠先生と会わせてやるって言ったら、途端に嬉しそうな顔しやがって」
「いや……それは仕方がないんじゃないですか?」
堂上さんの行いが悪いからです、と円香は正直な気持ちを口にする。
隣りに座る堂上は半ばヤケになりつつ、ため息をついた。
「楠先生に会わせてやる機会を設けたのは俺なんだからな。もっと敬え。もっと俺に懐け」
「敬ってますよ。感謝だってしてます」
「なら、もっと懐け」
「堂上さんに懐いたら、なんかとんでもないことになりそうなので遠慮します」
「あーあ、やっぱり新人の頃に食っちまえば良かったなぁ」
ギョッとして円香は慌てて堂上との距離を取る。
だが、堂上は気にしていない様子だ。