今宵、貴女の指にキスをする。
「そんなに固くならず。こちらこそ、初めましてだね。木佐先生」
「楠先生は、私のことをご存じで?」
円香はそう問いかけたあとに後悔した。
こうして楠と会う機会をもらえたのだ。堂上が円香のプロフィールを伝えていたことだろう。
恥ずかしくなってうつむき加減になる円香に、楠は軽快に笑う。
「堂上くんに聞いたからじゃないよ。個人的に知っていたんだから」
円香が何に恥ずかしがっているのか、楠は分かったのだろう。
クスクスと声を上げて楽しげに円香に声をかけてくる。
「君の作品、いくつか読ませていただいてるよ」
「ええ!」
楠の言葉に驚きが隠せない。目を丸くさせた円香を見て、楠は目元に皺を寄せる。