今宵、貴女の指にキスをする。
「私が書くのはミステリーばかりだけど、たまには純愛モノを読みたいときだってあるんだから。そんなに驚かなくてもいいでしょう」
「そ、そうなんですか?」
「ええ。貴女の書く文章はふんわりと柔らかい。最後にはフッと身体の力が抜けて次に踏み出そう。そんな気持ちにさせてくれる」
「!」
なんということだろうか。円香は、嬉しくて顔を紅潮させた。
まさか、憧れの作家が自分の作品を読んでくれていたということだけでも嬉しいのに、書評までもらえるなんて。
ありがとうございます、と振り絞るようにお礼を言うだけしかできなかった。
堂上に感謝だ。こんなに素敵な時間を用意してくれたなんて……!
色々お話したいことは山とある。
あれこれ質問しようかと思っていると、隣りから苦笑交じりで堂上が声を挟んできた。
「木佐ちゃん。楠先生に色々と聞きたいって顔しているけど、ちょっと我慢な」
「え?」