今宵、貴女の指にキスをする。

「予約しているのは、このホテルの和食の店です。そこへ移動しましょう」
「ああ、よく堂上くんが予約してくれるところだね。あそこの日本酒は色々と種類があって目移りしてしまうんだよ。ところで木佐先生はお酒は飲めますか?」
「たしなむ程度しか飲めません」
「では、少しずつ利き酒をするといい。たくさんの種類に口をつけたいでしょう?」

 これもいい勉強になりますよ、と穏やかに笑う楠に、円香もほほ笑み返す。
 そんなやりとりをしながら、三人はエレベーターホールへと向かう。

 すぐに上の階へと行くエレベーターは付き、扉がゆっくりと開いた。そのときだった。
 ピリピリとメールを知らせる音が響く。

 どうやら堂上のスマホからだったようで、ジャケットからスマホを取り出した堂上の顔が歪む。

「スミマセン、会社からです。少し時間がかかってしまうと思うので、申し訳ありませんがお二人で先に店に入っていてくれませんか」

 どうやら難問が飛び込んできたらしい。
 楠はそんな堂上を見て、肩を竦めた。
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