今宵、貴女の指にキスをする。

 他にも何人かエレベーターに乗り込んできたため、会話はない。
 背の高い男性に囲まれてしまったため、今どの階まできたのか液晶画面を確認することはできなかった。

 それでも楠が指定階に着けばエスコートしてくれるだろう。
 そう思っていた円香は、ただお店がある階までジッとしていた。

 すると、ある階で楠が「下ります」と周りの人たちに声をかける。
 円香も慌てて楠に続いて下りた。だが、なんだか思っていたような風景ではない。

 フロア全体が何かしらの食事処や店が並んでいると思っていたのだが、客室が続いている。

「楠先生、下りる階を間違っていませんか?」
「いいえ。この階でいいんですよ」
「そう……ですか?」

 もう少し奥へ行けば、堂上が予約した店が見えてくるのだろうか。
 そう思ったときだった。
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