今宵、貴女の指にキスをする。

 円香は、自分の指に触れ続けている相宮の顔を見つめる。
 円香の強い眼差しに気がついたのか。私の視線と彼の視線が絡み合うと、相宮は目尻に皺をたっぷり寄せた。

「そうですね。確かに私も仕事ですから。嫌な仕事も引き受けなければならないときがあります」

 ほら、やっぱり。円香がムッとして顔を歪めていると、相宮はフフッと声を出して笑う。

「ですが、木佐先生は別格ですからね」
「え?」
「私がやりたいと立候補したんですよ」
「冗談は結構です!」

 カッと頬が一気に熱くなる。なんだか愛の告白のようにも聞こえてしまった。慌てる自分自身に落ち着くように言い聞かせる。

 これは相宮のリップサービスだ。
 他意はないはずだけど、どうしたって胸の鼓動は高鳴り続けてしまう。
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