今宵、貴女の指にキスをする。
先ほどの楠とのやりとりを思い出した円香は、ブルッと身体を震わせ、同時に鳥肌が立った。
もし、楠に無理矢理部屋に連れ込まれ、ベッドに押し倒されたりなんてしたら……逃げることはできなかっただろう。
思い返すと、怖くて怖くて涙が零れてしまいそうだ。
展望室の入場券を買い、エレベーターに乗って展望室へと向かう。
「うわぁ……」
三百六十度見渡すことができる展望室からは、夜景が望めた。
すでに暗くなってしまっているので、世界遺産の数々はあまり見つけることはできなかったが、ガラスに書かれている説明を見て思いを馳せた。
もう一日、京都に残ってしまおうか。いまからホテルを取れば、それも可能だろう。
だが、いつ何時堂上が現れるか、わからない。
今はまだ白か黒か把握がつかない堂上とは顔を合わせたくはないのが本心だ。