今宵、貴女の指にキスをする。

 先ほどから何度もスマホに堂上から電話がかかってきている。
 だが、それに出る余裕はないし、出るつもりもない。

 再び着信を知らせるスマホのディスプレイに目を向けると、会いたいと思っていた相手からの電話に胸が大きく高鳴った。

「うそ……どうして?」

 ディスプレイに映し出されたのは、相宮の名前。
 あの日、円香と言い合いになり、そのまま音信不通になっていた人物からの突然の電話に驚きが隠せない。

 円香の新作本の表紙を制作するという仕事を降りてしまった、相宮だ。
 今更円香に連絡を取るようなことはないはず。

 だけど、円香は相宮の声が聞きたかった。会いたかった。
 理由なんてなんでもいい。この前のやりとりについて罵られてもいい。
 それでも、相宮の声が聞きたい。聞きたかった。
< 94 / 157 >

この作品をシェア

pagetop