今宵、貴女の指にキスをする。

 円香は震える手をなんとか押さえながら、スマホをタップした。

「もしもし……?」
『久しぶりですね、木佐先生』

 息が止まるかと思った。
 円香は咄嗟に声が出ず、電話先の相宮が心配そうに聞いてくる。

『木佐先生、大丈夫ですか?』

 木佐先生、ともう一度円香の名前を呼ぶ。
 円香はフゥと小さく息を吐き出したあと、口を開いた。

「お久しぶりです、相宮さん」

 声が震えた。そのことに自分でも気が付いた円香は、慌てて咳払いをする。

「今日は一体、どうしたんですか?」

 円香の問いに、相宮が一瞬黙り込む。
 そして、何事もなかったようにいつもの朗らかな声が返ってきた。
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