今宵、貴女の指にキスをする。
しかし、円香は相宮のことをビジネスパートナーだけの関係にはなりたくないと思っている。
自分のことを好きになってほしい。ずっと傍にいてほしい。
仕事がらみではなく、プライベートで会ってみたい。そう願う相手だ。
相宮と円香、二人のお互いの認識は違いすぎている。
だからこそ、今。相宮にすべてを頼ることはできない。だけど、会いたい気持ちは抑えることなどできない。
円香は心にブレーキをかけつつ、だけど止まらない気持ちを呟いた。
「京都タワー……」
『え?』
「京都タワーの展望室に」
円香がすべて言い終わる前に、『今すぐ行きます』という相宮の声が聞こえて通話は切れた。
相宮らしからぬ慌てぶりに驚いて目を丸くさせていた円香だったが、思わず噴き出して笑ってしまう。
嬉しくて涙をこぼしながらでも、笑い声が出る。
相宮と久しぶりに話すことができた。それも、今から会いに来てくれるという。
それだけで充分だ。
円香は幸せを噛みしめ、京都の夜景を見つめながら相宮が来るのを待った。