宝石姫と我が儘な教え子
「気がついた?」
目が覚めたら白くて固いベッドに寝てた。真っ先に思ったのは「良かった、まだ死んでないや」ということだ。まさか生徒がここにいたとは思わなかったから、危うく口に出すところだった。
「…高柳くんが助けてくれたんだ。面倒なことさせてごめんね。なんかちょっと、たまたま体調悪くて…」
「そういうの良いから、まだ寝てな」
起き上がろうとすると高柳くんに止められた。普段は掴み所のない印象なのに真顔になると妙に凄みがある。
「ええと…」
「ここは保健室。さっき学年主任から先生の家に電話したところ。家の人がすぐに迎えにくるって。」
高柳くんは倒れた私を保健室に寝かせて必要な連絡を回し、美術室まで片付けて施錠してくれたらしい。大人顔負けの手際の良さだった。
「あの薬は何?」
問い詰めるようにこちらをじっと見つめてくる。怒ってるようでもあり、怯えてるようでもあった。
勘の鋭い子供だもの。あれだけの症状が薬一つで収まることに違和感を感じているのだろう。だけど生徒に私の体の状態を知らせるわけにはいかない。あと数日間、最後まで普通の先生でいたい。
「生理痛で、痛み止めの薬を飲んだだけだよ」
高柳くんの瞳を受け止めきれずに目をそらして答える。大嘘な上に高校生の男の子が苦手そうな話題を選んだ。私はずるい大人なのだ。
「さっきのが生理痛なら重すぎ。ちゃんと病院行きなよ」
「そだね…」
しかし高柳くんにはそういうズルい逃げ道は関係なかったらしい。高校3年生にして、女子に慣れてるにも程があると思う。
「色々助けてくれてありがとう。ごめんね、受験生なのに先生のせいで遅い時間まで学校に残しちゃって」
「気にしなくていいよ。お礼なら勝手に貰うから」