宝石姫と我が儘な教え子
お礼と言われても何も返せるものはないけど、と思っていたら、高柳くんが寝てる私を覗きこむ。明るい色の瞳がすぐそばに近付いて、深くけぶるような睫毛まで見えた。
綺麗だなぁとぼんやり思っている間に何も見えなくなって、唇に暖かく柔らかな感触が走る。
「えっ?なに…?」
「お礼、貰った」
「………は!?」
かなり遅れて彼の意図を理解した。さっきのはキスだ、多分そうだと思う。生まれて初めてのことで、しばらくはそれがキスと呼ばれるものだと分からなかった。
要は彼はお礼代わりにキスを貰ったということなんだけど………キスがお礼になるだなんて、どこの美少女の話だろうか。だいたい彼が望めばキスなんて同世代の女の子といくらでもできるだろう。
「瑠衣先生、固まってる。可愛い」
「っ…て、待っ」
高柳くんがもう一度同じように唇をふさごうとするので咄嗟に首を捻ったけど、今の体の状態ではとても逃げられなかった。肩を捕まれて余計に変な距離感になる。人生で二度目のキスは心臓を壊すくらいにきゅうっと変な感覚を呼び起こし、貧血だったのが嘘のように顔が熱くなった。
「…いい加減にっ」
「そうだね。もうお家の人来るから、これでおしまい。」
三度目のキスは額に降ってきた。呆然としてる私に彼は悪戯っ子のように笑う。
「でもさ、こういうのって良くないよね。先生と生徒なわけだし」
「当たり前でしょ!」
「だから、二人だけの秘密にしよ?」
「!?」
高柳くんはまるで共犯者に向けるような笑みを浮かべて大きな瞳を輝かせる。
「他の人に言わないでください、もうしません」なら分かる。だけど「秘密にしよう」は違うんじゃないの?
「無理したらだめだよ。明日は学校休んでゆっくりしてな」
彼にとってはキスなど大した事ではないのか、その後私の両親が迎えにきてくれた時にも普通に挨拶してた。私だけ真っ赤な顔で心臓がバクバクしてるのが馬鹿みたいだ。