宝石姫と我が儘な教え子
そして、とうとう迎えた最後の授業の日。
その日は実技課題として宝石のカットを生徒に体験してもらうことにした。
「気に入った色の素材を選んで、見本を参考にしてカットしてみましょう。ローゼンツカットやテーブルカットなど、好きな形を選んで」
カラフルなゼリーのように輝く宝石に生徒から歓声が上がる。イミテーションなので工作用品で削れる安価な素材だけど、見た目はけっこう綺麗だ。
「終わったらヤスリで研磨して、出来上がりをこの宝石用のスコープで覗いて。
光の屈折と反射面の輝きをよく観察してね。上手くいけば、カット前と比べて輝きが格段に増している筈だよ。」
一見遊びのような授業だけど、宝石のカット技術は科学的な側面も強い。宝石をより美しく魅せるために光の分散が計算されている。
「瑠衣先生、上手くできないんだけど」
「そうだね…。とりあえず、もっと簡単な形を選んだ方が良いんじゃない?」
高柳くんがカットしようとしてる形はラウンドブリリアントカットだ。シンメトリーな57面体のカットはダイヤモンドの美しさを最大限に引き出す職人技の極み。高校生にできるはずがない。
彼がカットに失敗しては謎の物体を作り上げている中、早くも作品を作り終えた生徒達が模造宝石をスコープで覗いていた。「キレイ!」と無邪気に笑顔を浮かべる様子がとても可愛い。
「青葉先生、この課題居残りでやっていい?」
「下校時刻までならいいよ」
その日はかなりの生徒が授業時間外まで夢中になって課題に取り組んでいた。中には色を変えて何個も作品を作っている子もいる。