宝石姫と我が儘な教え子
手のひらにちょこんと模造品の宝石をのせられる。それはまるで光そのものを集めたような美しさを放っていた。


「先生はいらないから、作品は持ち帰ろうね…」


平静を装って返すと今度は左手をすくわれて、薬指に宝石をそっと押し当てられる。


「口説かれてるのくらい、分かるでしょ」


高柳くんの瞳にアメジストのような妖艶な光が浮かび、次の瞬間には手を絡め取られていた。しかも悪いことに、囚われているのは腕だけじゃない。彼の放つ甘美な熱から視線が離せなくなっていた。


今ならたくさんの女の子が高柳くんに夢中になる理由が分かる。一瞬でもこんなふうに扱われたら、自分だけが彼のヒロインだと信じてしまいたくなるだろう。


あの日と同じように唇が触れそうになって、やっとの思いでそれを阻んだ。


「馬鹿なこと言わないで。悪ふざけもいい加減に」


「本気だよ。先生だって明日から俺と同じ学生でしょ?何か問題ある?」


高校の制服を着てるくせに自分も同じだなんて変なことを言う。しかも彼の前提はまるっきり間違っているのだ。「明日からは」なんて私にはない。私の体は既に命の燃え尽きた残り火だ。


「本気だって言うなら、私も本気で返事をするけど……

高柳くんみたいなガキに興味無いわ。私は大好きな宝石をたくさん買ってくれるハイスペックな人としか恋愛しないって決めてるのよ。」


「それって何?金持ちってこと?つーか先生そんな言葉遣いだったっけ?」


不審げに眉をしかめている。悪女っぽい雰囲気を出してみたけど上手くいかなかったらしい。ここは勢いで押しきるしかない。


「ただのお金持ちじゃないわ!地位も名誉もあるお金持ちよ。例えばT大医学部出身の超イケメン紳士とか」


「なんか急にすげー具体的だね……」


今度はぽかんと口を開けている。ここまで言えば彼も私に興味を失くすだろう。


「とにかく、医者以外眼中にないの。そういうことに決めてるの」


「オッケー。じゃあ医大に受かったら付き合ってね。とりあえず今は連絡先だけ教えて」
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