宝石姫と我が儘な教え子


「はぁ!?」


気がつけば私のメッセージアプリのIDが彼の携帯に収まっている。「QRコードの使い方も知らないの?」とか、何度か文句を言われた気がする。


この高校は私の母校だから、医大に進学するのが無理なことくらい分かる。ほどほどの成績の子が集まる普通の高校で、調べるまでもなく医大に進学した人なんか過去一人もいない。


……そうか、だから別に良いんだ。高柳くんが医大に受かるわけないのだから、これで断ったも同然。







そう考えていたのが数ヶ月前のこと。



「裏口入学かな…?」


「酷いな先生。普通に合格したってば。
俺って煩悩で生きるタイプだから、ヨコシマな動機があれば勉強くらい何とでもないわけ。」



驚くべきことに高柳くんは医大、しかもT大医学部に進学した。


「はい、これ」とT大の学生証を見せられる。高校の制服姿から私服に変わった高柳くんは、もう子供とは言えない雰囲気になりつつある。


「というわけで、付き合おうよ」


「ご、ご、合格したからって付き合うとは言ってないわ!」


とんでもないことをしてしまった。私は高柳くんが本気だという言葉を信じず、結果として彼の進路まで歪めてしまった。


「瑠衣先生は俺のこと嫌い?」


「そういうことじゃなくて」


「じゃあそんなに重く考えなくて良いでしょ。試しに付き合っても損はしないと思うよ?」


余裕たっぷりの態度で諭される。これではどちらが教師か生徒か分かったものではない。油断すると「そうだね」と頷きそうになるので、その気持ちを無理やり押さえつけて更なる暴言を吐いた。


「T大に入ったくらいで私と付き合えると思わないで!」


大きな声を出したせいか、周囲がざわっとした。彼と私を見比べた他人の視線が痛い。


「私が恋をする相手は、大人の恋愛経験を積んだ人に限られるの。だから高柳くんのようなガキは…」


「先生が言ってることよく分からないけど、童貞は嫌ってこと?」


「っごふっ!」


急に、なんてことを言うんだろう!
体制を立て直すために大きく息を吐く。


「そ、そ、それだけじゃないわ。べ、ベッドでのてててテクニックは確かに大事だけど、洗練された良い男になるにはとにかく経験が重要なのよ。」


「顔真っ赤にして何言ってんの?女性誌か何かの受け売り?」


「違います…」
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