宝石姫と我が儘な教え子
「そうかもね。だから会いに行くんだよ」
理緒さんは後部座席に置かれた大きな花束と俺を交互に見て、次第に顔を強ばらせる。
「次郎さん、せ、せふれ殿にそれを渡すのですか?」
せふれ殿。「殿」を付けるとセフレすら間抜けな殿様のようになる。新しい発見である。
「久しぶりに会うのに、手ぶらじゃ格好付かないでしょ」
「立ち入った事を聞いて申し訳ないのですが、まさか、せふれ殿を旦那様から取り返そうとなさってるのですか?」
「いいね、それ最高」
にやっと笑うと「ひえー」と悲鳴を挙げる。何とも虐めがいのある人である。修羅場でも想像しているのか首をふるふるして怯えるのが面白くて、作り笑いは途中から本当の笑いに変わった。
「次郎さん、早まるのは止しましょう!過去にどういった経緯があるにせよ、今は旦那様と幸せに暮らしていらっしゃるのです!」
「心配するなって。ほら、おやつあげるから車で待ってて」
理緒さんの好物である甘いものを手渡す。ついでにお茶。しばらく車で待たせることになるので予め用意してきた。理緒さんはきょとんとして包みを覗き込む。
「これはこれは、美味しそうな……
…はっ!違う違うっ!お菓子を頂いても駄目なものは駄目ですっ!人の道に外れるようなことはなりませぬっ」
「でももう着いたからさ。暇にさせて悪いけど、少しだけ一人で待ってて」
「待って下さいっ……あれ、ここは…」
血色ばんでいた理緒さんだが、窓の外を見渡して表情を失くした。深い緑の木々を抜けた先には、ひっそりと暗い色の石碑が並んでいる。ここはとても静かな、小さい墓地だ。
「せふれ殿は…」
「そう、ここにいる。瑠衣の結婚相手は神様なんだ。」