宝石姫と我が儘な教え子

「結婚が決まったの」


「へ……はい?」


「23歳になったら結婚するのよ。その前に宗次郎くんとの関係は精算しておきたいの」


「ワケわかんないんだけど」


「宗次郎くんなんか、結婚までのただの火遊びだわ。セフレだなんてふしだらな関係は清算しておかないと結婚に差し支えるの。分かるでしょう?」


「…瑠衣先生?『火遊び』と『ふしだら』の意味知ってる?」


宗次郎くんが苦笑いする。驚いているせいか懐かしい呼び名に戻っている。もちろん、宗次郎くんとの関係性が『ふしだら』と程遠いことはよく知っていた。

そういえばキスをしたのは保健室にいたあの日だけだった。こんなに好きになってしまうのなら、もう一度くらいして貰えば良かった。


……いけない、今日は余計な妄想が過ぎる。



「とにかく!私の望みを全て叶えてくれる相手に巡り会えたの。宗次郎くんが将来医者になったとしても足元にも及ばない程の相手だわ。そういうわけであなたはもう用済みよ」


宗次郎くんは私を詰る訳でもなく、ただ静かな瞳を向ける。せっかくなので琥珀色の美しい瞳を目に焼き付けておこう。彼は少し髪が伸びていた。触ったらさらさらしてさぞ気持ちが良いだろう。


「……」


「今日伝えたいのはそれだけ。もう帰っていいわ」


本当は私がサクッと帰れればスムーズだけど、残念なことに体が動かない。今やグラスを持ちあげるだけで震えてしまう程の力しかなかった。



「瑠衣、ターミナルケア始めるんだね」


彼の口から信じられない言葉が飛び出す。静かな口調だった。ターミナルケア、別名は終末医療。緩和ケア。治る見込みのない重篤な患者の最後の日々を穏やかに過ごすための……

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