宝石姫と我が儘な教え子
2 グランディルライト王国
lapis side 稀代の巫女姫の帰還
深い海の底で目を覚ました。目を開けると優しい蒼に懐かれている。旅行会社のパンフレットでしか見たことのないようなきれいな海の色。
視界が慣れてくると色を発しているのは宝玉だとわかった。私を取り囲んでいた大小さまざまな蒼い球体がシャボン玉のように砕けて消える。
「ラピス王女、ご帰還を心よりお待ち申し上げておりました」
神官長の息子であるスフェーンが膝を付いて深く頭を下げる。全身にひどい汗をかいていた。長い間、時守りの宮を駆動していたのだ。体には大変な負担がかかっているだろう。
「ご気分はいかがですか」
「大事ない。後のこと侍女に任せよ。下がって良いぞ」
私ったらなんて偉そうな話し方をしてるんだろう。違和感を覚えたら、次々と頭の中に疑問符が沸き上がる。
宝玉、時守りの宮、スフェーン……。
どうしてこんなことを知っているの?
見たことのない美しい景色なのに、心の底から懐かしいと感じている。ここは一体……
「っ…」
「長い旅の後ですから、元の体に馴染むまで時が必要でしょう。ご無理なさらず安静にしてくださいませ。」
スフェーンは膝をついたまま敬服の礼を崩さない。頭を深く垂れ、長い金色の髪が顔にかかっている。それで自身の疲弊を隠しているつもりだろうか。肩で息をする様までは隠せないものを。
「笑わせるな。今は己れの体の心配が先であろう」
「いつ如何なる時もラピス王女の御身に勝るものなどございません。
ご帰還を完全なものとするため、あなた様の神聖なる御名を唱えてくださいませ」
「ふふ、生真面目過ぎる神官というのも考え物だな」
時守りの宮に僅かに残っていた蒼い欠片を唇に押し当て、力を引き出す。すると金色の光が輪のように宝玉の周りに煌めき、光の粒が空気に溶け出した。体に取り込んだ宝玉の力でスフェーンの身を拘束する。
「ラピス王女っ…戻ったばかりで神力を使うなど、お身体に…障りが」
「お前が手間をかけさせるからだ。つべこべ言わず休め」
スフェーンを眠らせて寝台の上に乗せると、力を使い果たした蒼の宝玉が散って砕けた。手狭になった寝台から体を起こす。
「普通に起きれる…どうして…?」