宝石姫と我が儘な教え子
体が軽い。痺れないし痛くない。自分の体が自由に動かせるくらい驚くことではないのに、なぜか違和感が膨らんでいく。
そういえばここには酸素を運ぶチューブも点滴もない。看護師さんを呼んだほうがいいかな。ナースコールのボタンはどこ?
おや、私としたことがまたおかしなことを考えた。「ナースコール」とは何だ。知らないが、知っている。ここではない場所で見聞きしている。
視界に入る自分の手足は健康的で、どこまでも走っていけるようだ。こんなに動けるのならまだやりたいとこがあった。
会いたい。あの子の笑顔をもう一度見たい。人を食ったような、不届きな、琥珀色の瞳の…
「宗次郎くん」
その言葉は何かの呪文のように記憶の奔流にこの身を投げ出した。知らぬ文明、知らぬ摂理。
「くっ…、これは…」
ラピス・フォン・グランディルライトはもう一度気を失い、次に覚醒した時には青葉瑠衣としての記憶を頭の中に備えていた。
転生先での記憶をすっかりと引き継いでしまうなど全くの想定外であり、臣下たちにとっては非常に頭の痛い事態となった。