宝石姫と我が儘な教え子

「そうですか、以前は黙っておられたので、てっきり姫様は飛竜が恐ろしいのかと。」


「あははっ。スフェーンが後ろに乗ってるのに、何を怖がる必要があるの?」


「…」


思ったままを口にしたら反応が帰ってこない。地球を旅する以前の私と違いすぎて、戸惑っているのかもしれない。


スフェーンが手綱を引き、飛竜が向きを変える。


「姫様、あちらでございます」


スフェーンが指す方向には黒煙が立ち上ぼり、遠くからでも火山が活発になっているのがわかる。急いで対処しないと近隣の家や田畑にも被害が出てしまうかもしれない。


「大変!いつの間にこんなことになっていたの。仕方ないけど今回も西側に溶岩を流すわ。私たちも山から離れよう」


スフェーンが手綱を引いて飛竜がさらに空高く飛び、山の全景が見える。
山の神を鎮めると言っても私にできるのは小さな孔を穿ち、小規模な火山の噴火を起こさせることだけだ。

これで火山の力を逃がし、島全体に被害が及ぶような大噴火を防ぐ。


神力を発動させるために、飛竜の首に下げられてる碧の宝玉を取り、唇に押し当てる。こうすれば勝手に宝石の力が体に取り込まれるのだ。このとき、いつも体はほんの少しの浮遊感に包まれる。

力を発動させた宝石は、光を溶かすように金の輪の輝きを放った。


『破壊せよ』


遠ざかる山肌で大きな爆発音と黒煙が上がる。西側にはみるみる赤黒い溶岩が流れ出た。


「お見事でございます」


「ありがとう…これでしばらくは持つわ」


これまで何度も同じ事を繰り返しているから、西側は黒い焼け野はら同然の景色になっている。人々の暮らしを守るためとはいえ、大事なグランディルライトの自然を破壊するのは辛い。

王宮に帰ると、広間の片隅から話し声が聞こえてきた。



「…姫様は目的の供物は手に入れられたのだろうか?誰か聞いているか?」


「いや私は聞いていないが、まさか国家三代の祈願に万が一にも失敗はないだろう。」


「しかし、奇跡の巫女と呼ばれながら実態はあの程度の力じゃないか。あれが本当に予言の巫女なのか私は未だに疑わしいと…」



『神官のみなさん、ひそひそ話が漏れてますよ!』


と冗談っぽく飛び出してみたり……なんて、もちろんできるわけない。実際には逃げるようにその場を離れた。


私にだって神官があれこれ言いたくなる気持ちはよく分かるのだ。我が国は財政難で、財政を圧迫しているのは紛れもなくこの私。

石の力を操る巫女である私が、力を使う度にこの国の一番の財である宝玉を食べてしまうのだから。
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