宝石姫と我が儘な教え子
その日の夕方、シャトヤンシーとスフェーンの二人を私室に呼んだ。この二人はお祖父さんと孫の関係にある。代々神官長を勤める家系で、三代揃ってびっくりするほど堅物である。
特にシャトヤンシーは仙人のような高みから意見してくるので、いつも私の方が言いくるめられている。しかし困ったときに頼りになるのもまた、彼らなのだ。
「異世界への旅のことをまだ聞けていなかったわ。時守りの宮で私は…私はうまくやれたのかしら」
「姫様は異世界に飛び、そして無事にお戻りになった。それが一番、肝要なことであります。」
モコモコと髭を動かしながら答える。結論を後回しにするような話し方がじれったい。
「だけど供物は?私は供物を得るために旅立ったんでしょう?だけど何も持って帰って来なかったじゃない…」
「異界にはこちらのものを持ちこめないのが絶対の掟。
ですから、異界より何も持ち帰ることができないのももまた、道理でありましょう」
「でも!」
今は道理を説かれている場合ではない。助けを求めてスフェーンの方を向くと、スフェーンはどんよりした顔で意気消沈してる。
「もし万が一、何かひとつでも不手際があったとするなら、全て私の責任にございます。
その際はこの腹を切ってお詫びを…」
「お詫びはいらないから詳しく教えて?」
「わわわわ姫様、落ち着いて。気安く臣下に触れてはなりません」
少し肩を掴んだくらいでお説教されてしまった。やはりスフェーンは筋金入りの堅苦しさだ。
「飛竜に乗ってるときはスフェーンだって私のこと支えてくれてたのに…」
「それは致し方なく!
最小限になるよう努めております!」
「…そうなんだ」
私に触るのそんなに嫌だったんだ…。全力で「致し方なく」と言われるとけっこうショックだ。
「さようございます!年頃の高貴な姫君が、お、男の体に気安く触れるのはどうかと思います…」
スフェーンはやや口ごもり、それを横目で見ていたシャトヤンシーの眉毛がモコっと上がる。
シャトヤンシーの視線から逃れるようにスフェーンが咳払いをして、やっと事の次第を話してくれた。
「爺上が申しましたように、異界への旅は何も持たずに向かい、何も持たずに帰るというのが原理原則になります。
神力は何事もそうですが、原則を覆すと大いなる報いをうけることになります。
ですから姫様はこちらの記憶すら手放して、まだ産まれる前の赤子に戻って立たれました。」
「うん…本当に何もかもを忘れてた」
思えば青葉瑠衣とは、何と幸せに満ちた人生だったことか。
身体は弱かったけれど、煩わしいしきたりや責務とも無関係。巫女としての期待を背負うこともなく、優しい両親のもとで好きな事をして過ごした。
特にシャトヤンシーは仙人のような高みから意見してくるので、いつも私の方が言いくるめられている。しかし困ったときに頼りになるのもまた、彼らなのだ。
「異世界への旅のことをまだ聞けていなかったわ。時守りの宮で私は…私はうまくやれたのかしら」
「姫様は異世界に飛び、そして無事にお戻りになった。それが一番、肝要なことであります。」
モコモコと髭を動かしながら答える。結論を後回しにするような話し方がじれったい。
「だけど供物は?私は供物を得るために旅立ったんでしょう?だけど何も持って帰って来なかったじゃない…」
「異界にはこちらのものを持ちこめないのが絶対の掟。
ですから、異界より何も持ち帰ることができないのももまた、道理でありましょう」
「でも!」
今は道理を説かれている場合ではない。助けを求めてスフェーンの方を向くと、スフェーンはどんよりした顔で意気消沈してる。
「もし万が一、何かひとつでも不手際があったとするなら、全て私の責任にございます。
その際はこの腹を切ってお詫びを…」
「お詫びはいらないから詳しく教えて?」
「わわわわ姫様、落ち着いて。気安く臣下に触れてはなりません」
少し肩を掴んだくらいでお説教されてしまった。やはりスフェーンは筋金入りの堅苦しさだ。
「飛竜に乗ってるときはスフェーンだって私のこと支えてくれてたのに…」
「それは致し方なく!
最小限になるよう努めております!」
「…そうなんだ」
私に触るのそんなに嫌だったんだ…。全力で「致し方なく」と言われるとけっこうショックだ。
「さようございます!年頃の高貴な姫君が、お、男の体に気安く触れるのはどうかと思います…」
スフェーンはやや口ごもり、それを横目で見ていたシャトヤンシーの眉毛がモコっと上がる。
シャトヤンシーの視線から逃れるようにスフェーンが咳払いをして、やっと事の次第を話してくれた。
「爺上が申しましたように、異界への旅は何も持たずに向かい、何も持たずに帰るというのが原理原則になります。
神力は何事もそうですが、原則を覆すと大いなる報いをうけることになります。
ですから姫様はこちらの記憶すら手放して、まだ産まれる前の赤子に戻って立たれました。」
「うん…本当に何もかもを忘れてた」
思えば青葉瑠衣とは、何と幸せに満ちた人生だったことか。
身体は弱かったけれど、煩わしいしきたりや責務とも無関係。巫女としての期待を背負うこともなく、優しい両親のもとで好きな事をして過ごした。