宝石姫と我が儘な教え子

眉をハの字に歪めた理緒さんは、しばらく沈黙すると「わかりました。ここで待ってます」とだけ言った。


やはり彼女に付いてきてもらって良かった。兄嫁は問答無用で俺を和ませてくれる風変わりな人だが、人の心に必要以上に踏み込まない。そうっと遠くから見守る暖かさと、品の良い配慮に溢れている。



そういう類いの優しさに甘えたくなる時もある。



一人ではどうしてもここに来る勇気がなかった。できることなら今も目を背けたい。並ぶ石碑から彼女の名字を見つけると、みっともないくらいに手が震えた。よく手入れされている小綺麗な墓だ。おそらく彼女の両親が頻繁に訪れているのだろう。


瑠衣に仏花は似合わないので、淡い色合いのバラの花束を手向ける。瑞々しい香りのする、さながらプロポーズを思わせる花束だが、これはずっとここに来なかった詫びである。

彼女が亡くなったのは6、7年前で、はっきりした時期は知らない。瑠衣は頑なに自分の最期を誰にも見せなかった。死ぬ直前にきっちりと姿を隠すなんて、まるで野良猫のような女である。


「……」


頬に冷たい感触がした。下を見ると黒い地面がぽつりぽつりとまだらに濡れている。さっきまでは雲一つない晴天だったのに、瞬く間に空は厚い雲に覆われ、土砂降りの雨が地面を打ち付け始めた。まるで彼女の機嫌を映すような空模様だ。


「今日も、帰れって言いたいのか」

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