宝石姫と我が儘な教え子
それに、何より宗次郎くんと出会えた。


彼と過ごした日々は僅かなのに、その姿はいつでも鮮やかに思い出せる。


例えば高校生の時。教室で無防備に居眠りしてる時には、普段よりずっとあどけない横顔を覗かせていた。実習生の私は彼の素行を注意する立場なのに、「あと5分寝かせて」と身内のように甘えられるからいつも答えに困った。


「可愛いかったな…」


「姫様?」


スフェーンとシャトヤンシーの二人に怪訝な顔をされてたので、取り繕うように「それはそうと」と言葉を切った。


「記憶すら持ち帰れないのが決まりなら、何故私はあちらの世界を覚えてるの?」


「…それについては私の不手際ではないかと懸念しております…。力が至らぬばかりに、誠に申し訳ございません。」


「謝らなくても、私は記憶があるほうが良いけど?」


「蛮族の地の記憶など姫様にとって害にしかなりません」


「蛮族って…すっごい誤解」


感覚のギャップに苦笑いする。地球で暮らす人が蛮族なわけがない。それどころか地球の文明はこちらの世界を遥かに凌駕していた。『電気』ひとつとってもこちらでは考えられないテクノロジーだと思う。


「何にせよ、二度と会いまみえることのない世界の記憶など無用です」


「そんなことないよ!もう会えなくても、この記憶は…私の宝物なの」


「それはなりません、姫様。記憶を残すなど神力の原理原則を外れているのです。もし報いが…姫様の身に何かありでもしたら…!」


その時、シャトヤンシーが「ふぉっふぉっ」と愉快そうに笑った。シーズーのようにふさふさの髭が揺れる。


「スフェーン、姫様を不安にさせることを申すでない。

姫様であれば想定外の事態になるのは必然。むしろ『想定外』は起きなければなりません」
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