宝石姫と我が儘な教え子
自分で言ったくせに、そんなわけないと慌てて口を押さえた。この世界で宗次郎くんに会えるはずがない。けれど琥珀色の瞳は、彼としか思えない甘い微笑みに縁取られる。


「やっと名前を呼んでくれたね」


彼の手が頬に触れた。宗次郎くんの手は濡れてひんやりしているのに、顔がかあっと火照る。


「宗次郎くんなの…?どうして宗次郎くんがここにいるの?」


「会いたいから、それで十分でしょ」


そんな事を言っても地球は全くの異界。神力と桁違いの供物がなければ、ここに来ることはできないはず。


「俺が居たら困る?」


「そうじゃなくて!わからないことだらけで…宗次郎くんも雰囲気が全然違うし…」


「そりゃね、七年経てば少しは変わるよ。時間を止めるなら俺も連れていってくれれば良かったのに」



七年?


彼は記憶よりずっと大人びた瞳で笑顔を浮かべる。そういえばスフェーンが異界との間には「時の波」があると言ってたっけ。私が過ごした時間とは違うのかも…



「そんなわけない…七年も経ってたら私のことなんか忘れるに決まってる」


「簡単に言うなよ」


彼は薄く笑って私をたしなめる。こんな表情をしたことあったっけ?それに、淡々とした声なのに宗次郎くんの悲しみが伝わってくる。


頬から耳の方にゆっくりと手が滑り、顔の距離が近付いた。唐突に保健室のことを思い出して、あの時のようにキスをするのだろうかと思ったら咄嗟に彼の顔との間に手を滑り込ませていた。


「待っ…」
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