宝石姫と我が儘な教え子
女官たちに囲まれてお茶や果実をすすめられたり、緩やかに扇がれたりしている。隣国の王族でも来訪してるのかなと勘違いする光景である。
いや、女官たちが心から楽しげに笑っているのが王族の接待とは決定的に違っていた。彼女たちは普段なら控えめで儀礼的に微笑むだけで、決してはしゃぎ過ぎたりしない、できた女性たちなのだ。
王室に仕える女官たちは良家の子女でおしとやかな女性ばかり。日本で例えるなら女子アナのような可憐な存在に近いと思う。その女官たちが競うように宗次郎くんと話したがっている様子を見ると、何故だか乾いた笑いが込み上げてくる。
楽しげな様子に声をかけるのも躊躇われて、部屋の入り口で佇む。
「ソジェイロ様じゃなくて、ソウ、ジ、ロウ」
「ソーウ・ジェイ・ロー様?」
「ちょっと違うけど可愛いからいいか。でも『様』はいらないよ」
「姫様のお客様ですもの。呼び捨てになんてできませんわ。
あ、姫様…!」
モルガの声に宗次郎くんが振り返る。いや、多分彼はさっきから私がいることに気がついていたに違いない。ゆっくり振り返って楽しげに笑う。
「そんなところにいないで早くおいで。『お姫さま』」
「笑わなくても分かってるわ!姫なんて似合わないことくらい」
「瑠衣、何を怒ってるの?」
「怒ってない!」
怒ってないし、心配したのだ。さっきからずっと待ちきれなくて、ここまで走ってきた。何よりも嬉しい気持ちを真っ先に伝えたかったのに、むかむかする気持ちに上書きされるのはなんなのだろうか。
「別に似合わなくないよ。日本にいたときから瑠衣は俺のお姫さまだったから」
「そんな歯が浮くようなこと言うくらいグランディルライト語に馴染んだのね…」
私のための席を整える女官を、宗次郎くんが「待って」と差し止める。
「二人だけで話そう、先生?」
『先生』だなんて、教師をしていた頃にも数えるほどしか呼んでなかったくせに。唐突に使われるとびっくりを通り越して顔が赤らむ。
その言葉はもちろん日本語に切り替わっていたので、女官たちが首を傾げた。
「あはは、瑠衣の照れるポイントって全然わからない」
「照れてない!」